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2025.08.0219:00

夏がきた

夏がきた。
紺色の夜空を見上げながら、はじめて天体望遠鏡をのぞいたマンションの駐車場を思い出す。

私は星の好きな子供だった。プラネタリウムを知った日から昼の空に隠れる星々を追っては焦がれ、誕生日に買ってもらった図鑑を大事に抱きながら眠っていた(らしい)。

特に「アンタレス」という星が好きだ。それはさそり座の目印と言われる星で、私がさそり座の女だから好きなのだ。休みの日にはプラネタリウムに行きたいとねだり、さそり座の解説を心待ちにした。そして誇らしげな顔をしながら、私はさそり座なのよ、といわんばかりの顔をしていた(らしい)。

そんな私が今でもはっきりと覚えているのは、今日みたいに紺と黒が混ざる夏の夜。見上げた紺に目を慣らせば、無数の星が見えてくるようだった。
父が買ってきた天体望遠鏡を組み立てて、私たちは遠く、遠くを覗き込む。だけども私の育った街は夜も明るく、アンタレスはおろか目立つ星さえ中々探せなかった。それでも父は私たちを楽しませようとしてくれたのだろう、唯一見えた月に望遠鏡を向け、ウサギがそこにいるとかいないとか、そんな話をした気がする。


あの時と同じ駐車場でひとり紺色の空を見上げると、子の好奇心を共にし、好きを認め伸ばそうと奮闘してくれた父の優しさが遠く遠くで輝いているように思う。
 

アンタレスよ、まだ光っているか。

今夜も月は、きれいだ。

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